冥土 前編。

朝、気がつけば堀の傍に居りました。

そこを泳ぐ鴨さん、此処は一体どこなのかしら?


「ようこそいらっしゃいました、此処はマッドな自転車が集うハンド冥土バイシクル展で御座います」


という事で入り口にあるBBシェルの中を抜けて会場に踏み込めばそこは自転車万華鏡。

正調ハンドメイドサイクルとでも言うべき「マキノ」さんの車両がある、そしてその背後には。

「出った〜っ!」

てな超ド級のインパクトを放つ「Sunrisecycles」さんの車両が。

意義ある造形という枠に問わられない「造形の為の造形」を突き詰めた一本は最早工芸品の域。

ショーなのだからショーバイクを並べるのは当然、しかし創作も此処まで来るとSF映画の世界。


因みに定型モデルとして販売予定のモノも展示されておりまして、此方のミニベロがそれ。

定型モデルってのは普通もっと当たり障りないモノだと思うんですけど・・・クレイジー。

現在フィレットの部分を一部Tig溶接化して5本ほど生産する予定との事。

値段だけは妙に常識的、というか異様に安い予価¥150,000(フレーム&フォーク)だそうですので、

ド級インパクトを求める激辛ミニベロ愛好家の方は勿論、超個性派セカンドバイクをお探しの方は如何でしょう?



さぁ会場は広う御座いますのでドンドン見て参りましょう。

前衛的なSunriseに対していつ見てもホッと安心できる堅実なランドナーを展示しているのは我らが京都の「グランボア」さん。

様式美重視な印象が強くあるランドナーですが、グランボアの親方は意外とそういう細かい事は仰られません。

とは言えランドナー門外漢のワタクシが見てもピシッと筋の通った仕上がりは素晴らしい。

デカールを使えば完全に真っ直ぐな線を引く事が出来る中、こういった手引き線は実に味わい深いですね。



「自転車は道具だ、ただ乗れればそれで良い」と豪快に言えればそれはそれで格好いいのだけれど、

「見た目って物凄く大事じゃない?」という点に凝って仕上げたモノにはやはり惹かれる訳で。

「Above x Swamp」さんの大分やり過ぎた感のあるアンドロメダ星雲、素直にストレートに最高にイカしてる。

コレ一台仕上げるのにどれだけの時間と費用がかかるんだろう?と下世話な事も頭に浮かびビビってしまいますが、

じゃぁ安価にこの色のフレームがあればそれが欲しいのか?というと・・・違うし。

「堪らなくスペシャルだから魅了される」ってのが答なのかも。

そんなスペシャルを叶えてくれる塗装屋さんの仕事もハンドメイドの重要な要素なのです。



腹が減ると濃い味のモノに惹かれますが、濃い味ばかりだと胃が疲れるのでもっとアッサリしたのが食べたいな、という事で。

老人でも無ければ若者でもない、そんな輝ける中年の星「Dobbat's」さんのブースで心を休める。

あ〜、良いわ〜、いつ見てもサイバさんのフレームは癒やされるな〜。

シンプルで小奇麗なのに確実なる個性もあって、アッサリしているのにコクがある、みたいな?

それでいて現状に甘んじる事なく新しい規格や潮流を取り入れて行くのが凄いぜドバッツ。



「新しい潮流とかそういうのも良いけど、大前提としてさ」

大前提として?何?何があるの?

という高身長者の悩みを解決してくれる進撃の巨ビルダー「柳サイクル」さん。

何せビルダー自身が日本人枠ギリギリの巨大さなので、我々では把握し切れない巨自転車のバランスというモノをよくご存知です。

勿論、巨大自転車専門という訳ではなく普通サイズの車両も作られますし細かい修理修正なども素早く対応可能。

こういう小回りの効くビルダーさんってのが各町に一軒や二軒あると幸せなんですけどねぇ。



反対に「こういったビルダーさんが国に一軒あって助かる」という必殺仕事人的ビルダー「Weld-one」さんは、

独特のオーラを纏う個性はチタンフレームに加えてチタン製クランクを出展。

チタンクランクと言えばチェコのモラティ、最近ではケーンクリークなどが知られていますが、

「チタン製でこういった構造・形状のモノを!」とオーダーでとなると難易度はチョモランマ級。

そのチョモランマを越えて行く為のシェルパがウェルドワンさん。

シェルパ料が払える気がしないのでワタクシは一生お世話になれないでしょうが、

比較的近い場所にこういう人が一人居てくれるってのは純粋に有り難いですよ、ええ。



こんなバイクポロ用車両とかもね、バイクポロやってなきゃ何が必要でどう作れば良いか分からないじゃないですか。

この車両を展示した所で「わぁ!バイクポロやりたいのでコレ下さい!」となる事などまず有り得ない。

けど「必要だと思った事を形にして機能に昇華出来る」という参考としてはとても良いサンプル。


因みに製作者の「バカンスサイクル」さんは固定ギアでトレーラー引いて日本半周とかしてしまう奇特な方なのに、

とてもとてもとてもとても人当たりの良い方なので、千葉県の人は是非一度是非。


そんなこんなで明日に続く。

空井戸サイクル

「自転車に恋をして」 日々横を通り過ぎるママチャリでなく、恐る恐る触れる超高級車でもなく、跨り漕ぐ度にときめく自分の愛車。それを見つける旅の水先案内人が自転車屋です。そしてその恋がズッと続くお手伝いを今日も明日も明後日もしていたかったのですが令和二年をもって廃業し現在地下潜伏中。