貸借対照表。

出先でトイレを使う時に「貸して下さいor借りて良いですか」という表現を使う事が多い訳ですが、

以前からふんわりと「何で貸し・借りという表現になったのだろう?」という疑問を抱いておりました。


で、先日ですね、苦悶に顔を歪めたスーツ姿の壮年男性が入り口に立ち言ったのです。

「ト・・・トイレを貸して貰えませんでしょうか?」

そこでNoなどと言う選択があるでしょうか?いや、無い。

「トイレは二階です、あと少しの辛抱ですぞ!」と鼓舞し彼をトイレに送り出しながら、疑問の答がスっと頭を過ります。


トイレに貸し借りという表現を使うのは、そこに「恩」があるからではなかろうか、と。

数分後、表情の柔んだ彼は二階から降りて来て何度も何度も礼を言いながら去って行きました。

私は何もしていませんし何の損益も被っていません、しかし彼は人生を左右する様な大惨事から逃げ果せた、

言わば無から有を生んだとてもハッピー&ドリーミングな展開に、私は人の世の美しさに酔いしれたのです。


だがしかし。

この後、ホラーの如き展開になると誰が予想し得たでしょう。

暫くしてから私はトイレに行きました。

ジッパ開けてささ放尿〜、と目を下にやると・・・放尿の前にOh!No!

ベチャ〜っとですね、前走者のナニがですね、ベチャ〜とついとるのですよ、白く輝く和式便器に。


「何やねんコレは・・・己がケツの始末くらいつけて行けよ・・・」

と溜息混じりに一歩下がった私を、更なる事態が待ち受けていました。

トイレの前の足元に・・・コロンって・・・転がってるの、元々食物だった何かが。


誰が拾うのか?私しか居ません。誰がその後を拭いて綺麗にするのか?やはり私しか居ません。

自分の子供のヤツならナンボでも拾いますし素手でもOKですが、知らんオッサンのを何故・・・。


この借りはいつか必ず返すからな!ケツを洗って待っておれよ!

そう憤慨しつつも頭の隅では「そうか、トイレはやはり貸し借りなんだな」と妙に納得しとりましたです。



と、まぁその様な事がありましてですね。

彼からすれば緊急事態を脱した事が全てで後処理まで気が回らなかったという事であって欲しいですが、

「うわ!こぼれた!でも触るの気持ち悪いし放っとこ〜」とポップな感じで無視しただけなら残念な事ですよ。



昨日の休みは少し遠くの街に引っ越したお客さんの自転車を引き上げに行って来ました。

弊店で御用命頂いた自転車がボロくなって来たけど、今住んでいる土地には自転車屋が無い、という事で。

半日ほど車に乗りっ放しでガス代&高速代もかかりましたが、そんな事はどうでも良い事です。

それ以上に弊店で御用命頂けたという過去の「恩」があり、その恩人が困ってるというなら。


じゃぁ仮に前出のトイレの彼が弊店で自転車を、と来られたら私はどうするでしょう?

1,ズールハーネ(棍棒)で踊る様に殴る。

2,新車の自転車に唾つけて納品する。

3,ヘラヘラ笑いながら過去は水に流して応対する。

答は!・・・そんな事考えてる暇があれば仕事しましょう、仕事。

空井戸サイクル

「自転車に恋をして」 日々横を通り過ぎるママチャリでなく、恐る恐る触れる超高級車でもなく、跨り漕ぐ度にときめく自分の愛車。それを見つける旅の水先案内人が自転車屋です。そしてその恋がズッと続くお手伝いを今日も明日も明後日もしていたかったのですが令和二年をもって廃業し現在地下潜伏中。